卒業式…
やっとこの日を私は迎えることが出来た

この日を毎日毎日待ちわびて過ごしてきた一年半…

星月先生だけを想い、星月先生を心の奥底でひっそりと…
誰にも分からないようにひっそりと…暖めてきたこの気持ちを
学園を卒業するこの日に…星月先生に伝えようと。
それだけを支えにして勉学に部活に励んできた

星月先生は、校門で私のクラスメイトと軽口を叩いて笑っている
離れていても聞こえてくる会話の内容に少しドキリとした

「いつまでも独身貴族をしていないで、幸せになってくださいね」
「早く良い嫁さん見つけてくださいね!」
「部屋片付けてくれる奥さん、来てくれるといいですね」

代わるがわる先生へ投げかけられる言葉に、先生は視線を泳がせながら何か言葉を返している…
何て返事をしたんだろう…

先生の声は、ここまでは届かない…

でも、その表情から肯定的な返事ではない様子が伺える

先生は未だ”あの人”への罪に囚われていて…贖罪も出来なかった罰を"恋愛をする資格がない”という気持ちに摺りかえて生きていくつもりなのだろう…
でも、そんなの辛すぎる
きっと”あの人”もそんなの望んでいないはず…

もう、これ以上無いってくらいの勇気を振り絞って…星月先生の前へ歩を進める…



結果は…見事に玉砕…
これまでの一年半の気持ちを、精一杯伝えたつもりだった…
先生に幸せにして欲しいんじゃない…
先生と一緒に幸せになりたいんだと…
先生を想って過ごしてきた学園での生活は…私にとってとても幸せな時間だったって事を…

最初は泣きそうになるのを堪えながら…最後は涙でぐしゃぐしゃになりながら…

「さようなら…」と声を振り絞り、やっとの思いで伝える
握手したまま繋いでいた、暖かくて大きな先生の手をそっと離す…

涙がとめどなく溢れてくる
その涙を拭うこともなく、俯いてくるりと先生に背を向ける
先生との最後の思い出がこんな顔は嫌…だ…

どんな答えが返ってこようとも、最後には笑顔で…
先生が好きだと言ってくれた笑顔で…と決めていたのに…

私は振り返ることなく、どんどん走った
こんな嫌な顔をした自分が先生の視界から、早く消えますように…

不意に現われた二つの影に思いっきりぶつかった
びっくりして顔を上げる…そこには見慣れた二つの顔が心配そうに、不服そうに覗き込んでいた

「錫也…哉太…なんで…」
その問いには答えずに、錫也が言葉を重ねてきた

「その表情だと…星月先生とは…」

「!…っ…うぇ…っく…ふぇ…ぇ」
いつも近くで見守ってくれていた幼馴染の顔を見ると、急に緊張が解けて言葉にならない声が口から漏れ出た

するともう一人の幼馴染が、少し声を荒立てる
「お前はそれでいいのかよ!」

良いわけない…良いわけないじゃない…だけど…先生のあんな表情…見るの…辛いんだよ…?

声にならない言葉が、涙となって溢れ出る

錫也と哉太には特に相談してたわけでもない…
でも、小さい頃からいつも一緒だった二人には隠し事したって通用しない…
この二人は何でもお見通しなんだから…

「おまえ…もしかして、これで星月先生のこと…諦めるつもりなじゃいよな…?」
「当たり前だよ、哉太…だって月子は昔から”これ”って思った事にはどんな困難でも乗り越えて願いを叶えてきたじゃない…」
「そ…そうだったな…諦めの悪いとことが月子のいいとこ…」
「哉太…!諦めが悪いんじゃなくってもっと他に言い様があるんじゃない?…うーん…猪突猛進…とか…一撃必殺…とか…」
「錫也…それもっと失礼じゃないか? こいつに…さ…」
笑いを堪えながら哉太が錫也を制する…

錫也も…「何かぴったりの言葉が出てこなくって…」と苦笑いしている…
二人のそんなやり取りを見てると私まで可笑しくなってきて…
今、星月先生に何度目かの失恋をしたばっかりだというのに少し笑ってしまった…

「お…!やっと笑ったな…? そうそう。お前はそれが一番だ…」
「そうだね…月子は笑顔が一番可愛いよ…っと、泣いた顔ももちろん可愛いけど…」

そっか…。二人には心配かけちゃったね…励まそうとしてくれたんだね…ありがとう…

「錫也…哉太…ありがとう…私…もう一度…行ってくるね…星月先生…保健室で泣いてるかもしれない…」
「そうだ、そうだ…!泣いてるに違いねぇ…あの卒業式の演説も今にも泣きそうだったしな…」
哉太がわざといつもより大きい声で私を送り出す…

「月子…お前の気持ちはきっと届くよ…俺たちが保証する…」
錫也もやわらかい笑顔で送り出してくれる…

「うん…ありがと、二人とも…勇気もらっちゃったね…先に帰ってていいから…」
言い終わらないうちに、くるりと回れ右して走る出す…

そうだ…さっきは自分の気持ちを伝えることだけで精一杯だったけど…
伝えるだけじゃダメなんだ…

最初は恋愛からじゃなくてもいい…
一つ一つ、先生のことを知っていく…
一つ一つ、私のことを知って貰って…
その先どうなるかわかんないけど、ココで終わらせたくない…!

そんな気持ちでいっぱいになりながら、ノックももどかしく保健室のドアをガラリと開ける…

「星月先生…!」

窓からグラウンドを見ていた様子の星月先生が、びっくりした様子でこちらを振り返る…

「お…まえ…どう…して……!」
その目には涙が溢れていて、鼻まで真っ赤になっていて…まるで子供のように白衣の袖で目をゴシゴシ拭いている…


「先生…さっきはごめんなさい…私…自分の気持ちばっかり押し付けて…先生の気持ちをそっちのけで…」
「…………」
「…やっと、先生と生徒という関係から卒業したんです…これからは先生の事をもっと知っていきたい…
もっと私の事も知ってほしい…恋愛という感情が先生にとってタブーならば…恋愛という形じゃなくってもいい…」
「…?…夜久…」
「ただ、先生の傍にいるだけでいいんです…。先生の傍で先生が無理して倒れないように…支えられる存在になりたい…」
「…っ…お…まえ…は…」
「ひとりでひっそりと泣くなんて反則です…あなたが泣くのならば、私は泣き止むまであなたの傍にいます。
笑顔になるまであなたの手を握っていてあげます…だから一人で泣くなんてそんな寂しいこと…しないで下さい。」

さっき自分から離した先生の手を、そっと自分の両手で包み込む…

「…傍に…オレの傍にいて…くれるのか…?」
「はい…」
「もしかしたらオレはお前を幸せには出来ないかもしれないんだぞ…」
「はい…」

錫也と哉太に言われたとおりに、私はこれ以上ないってくらいの笑顔を星月先生に向ける

「その…笑顔…」
「え…?」
「その笑顔を…失うかもしれないって…」
「……?」
「手に入れたものを失う位ならば…最初から手に入れないほうが傷は浅くて済む…と思ってた…」
「先生…」
「でも、違ってた…さっき、お前の笑顔が…もう二度と手に入らないって知ったとき…オレは…」
「先生…!」
思わす、星月先生の…細い首にギュッと腕を回す

「オレは…涙が…止まらなくなって…う…っく…うぅ…っ…」
「先生…大丈夫ですよ…だって、あのスターロードを先生と見た日から…私の笑顔は先生のものだったんですから…
先生が私の笑顔を失うのが辛いというのならば…私は先生より一日だけ長生きします…そしたら失うことはないでしょ?」
そう言いながらにっこりと微笑む

「なんだ、それ…」 と言いながら先生も涙で濡れた顔に笑顔を浮かべる

「やっと、笑ってくれたね…先生…」
「っ!…やられた…」
苦笑いしながら、先生は私の肩をぎゅっと抱きしめる

「先生…私の幸せも先生の笑顔だって事…忘れないで下さいね…」

「…わかった…それより…もう少し…こうしてていいか?お前のぬくもりを感じていたいんだ…」
「…はい…」

私達は一年半分の時間を埋めるように、寄り添い、抱きしめあい…キスをした…

もう、大丈夫…!って保証はないけれど…

辛いことがあったら、今感じているこの幸せを思い出そう…
そして、先生の傍に居たいって強く願ったこの想いを忘れないようにしよう…

そして、泣き虫な私に勇気をくれた二人の幼馴染の気持ちを無駄にしないように…


錫也、哉太…ありがとう…


--END--

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琥太にぃ、バッドエンド補完(苦笑)

琥太にぃには、幸せになって欲しくって・・・
初めての琥太にぃのバッドエンドは涙でぐしゃぐしゃになりました
あのバッドエンドがなければ、スタ☆スカにココまで嵌ってなかったかもしれない・・・
あのバッドエンドあってこその、ベストエンドだと思いました

大好きだ・・・琥太にぃ・・・